高原で深呼吸をして「空気がおいしい!」と思ったことありませんか?ワーケーションと称して、自然豊かな土地で仕事をすれば、なにやらクリエイティブなアイデアが生まれそうな気もします。
今回は、一体どんな空気が私たちの生産性を高めてくれるのか。既住の研究結果をもとに、私たちにとってなくてはならない空気と知的生産性の関係についてレポートしたいと思います。
私たちは、1日の80%以上の時間を建物の中で過ごし、呼吸により20kgもの大量の空気を吸っています。その量は、なんとご飯100杯分に相当するというから驚きです。
汚染された水の中に魚が住めないのと同じように、汚染された空気の海は私たちの心と体の健康を脅かします。
現代の知識社会では、ナレッジワーカーの知的生産性が経済競争力を左右しています。
そして、ワーカーの活動場所である執務空間の空気環境(IAQ)が知的生産性に大きな影響を及ぼすことは想像に難くありません。不快で我慢を強いられる温熱環境、頭痛が起こりそうなCO2濃度、アレル物質や粉じんが渦巻く環境では、とても個人のパフォーマンスは上がらないでしょう。
ワーカーの活動場所であるオフィスの費用構造は、約2/3が人件費といわれています。
経営効率性の面からも人件費の投資効率を最大化すること、つまりワーカーの知的生産性を最大化することは、企業が抱える重要な課題です。
しかし、逆に言えば、一体どんな空気環境がワーカーの知的生産性を高めるのでしょうか?ワーカーが少しでもスティーブ・ジョブズに近づいたら、日本の未来は明るくなりそうですよね。この問いのヒントになる実証事例を紹介します。
空気環境の影響と知的生産性の相関を示す事例として、ここでは2つの事例をご紹介いたします。
難関国家資格を目指す20-40代の社会人男女を対象とした、資格試験対策学校での事例です。資格取得をゴールとする強力な動機を持つ被験者(自身は被験者である事実を知りません)が、毎週同じ曜日、同じ時間に120分講義を受け、講義後の確認テストを受けます。その講義空間の空気環境の違いにより結果にどんな差が出るのか。という実証実験です。映像による講義となり、講師の質の差という要因も取り除かれています。 結果は以下の通りです。
<結果> ・換気量とテスト結果に相関が見られます。換気量が2m3/h程度の室内環境はCO2濃度が平均で2,800ppmとなっている中で、被験者の意欲や能力に悪影響を及ぼした結果といえそうです。 ※換気量に付随して室温変化もあったため、厳密な換気量のみの結果とはなっていません。 ・アンケート調査により得られた空気質の不満足者率と確認テストの結果にもと確認テスト平均点の関係にも相関が見られています。 また、興味深いことに、成績上位者と成績下位者に分けて分析すると、特に成績下位者において顕著な差が見られたそうです。空気環境は、特に著者のような凡人ワーカーの生産性に大きな影響をもたらすのかもしれません。
次にご紹介する事例は、温湿度環境と作業者の疲労度について、検証を試みたものです。
温度は24、26、28、30℃の4条件、相対湿度は40、55、70%の3条件、組み合わせ12通りの温熱環境に調整した室内で、平均年齢40.6歳の男女114名の被験者に認知課題を与えて、心理状態の主観的評価を行っています。
また、実験中は、携帯型の心電計を装着することで、疲労に伴う心拍変動を常時記録しています。
結果は以下の通りです。
<結果>
・室温が上がると、心拍数や自律神経活動など、体温調節機能に関わる生理的な負荷が高まります。
一方、同じ温度であっても、湿度を下げることにより心身の負担を軽減できる可能性が示されました。
・特に28℃以上の環境においては、湿度を下げることで体感温度が低下することを確認し、それに伴い不快感や疲労が軽減されることがわかりました。
これらの結果は、クールビズ設定など28℃以上で執務を行う環境では、外気処理を工夫するなどして、除湿を行う必要があることを示唆しています。ワーカーの疲労度が蓄積し、パフォーマンスを落ちることで、結果的に、損失の方が大きくなることは避けたいものです。
余談ですが、クールビズの効果に関する研究として、夏季設定温度を26℃から28℃にした際の知的生産性を含めた経済試算として、エネルギーコストは電力量換算で32.9円/㎡/年が削減されるものの、執務者の知的作業効率低下の損失として、人件費換算で3,200円/㎡/年が発生するという結果が報告されています。
除湿が難しければ、室温設定は26℃にした方が、投資効率の観点では、正解なのかもしれません。
本稿では、良好な空気環境と知的生産性に相関性について、ご紹介いたしました。
建物の環境デザインは衛生・快適という点に多くの目が向けられてきましたが、今後はさらに健康、知的生産性という観点にもっとフォーカスして、現存する建物ストックを優良な執務空間に変えていくことが求められています。そうでなければ、オフィス不要論も現実になりえるかもしれません。
今回ご紹介した事例は空気環境と知的生産性との関係について注目したものでしたが、ご承知の通り、執務環境の要素は温熱環境や空気質を決定する空気環境だけではありません。
光環境、音環境、空間デザイン、さらには対人関係、個人のモチベーションなど、他にも様々な知的生産性に影響する要素があります。
当社の強みである空気環境創造技術をベースに、他の要素も取り入れて、より良い執務空間創造に役立つ提案がご提供できないものか。
実は、今まさに、この問いの答えを探して、様々な思いのある企業と協力して、チャレンジを行っている取組が「point0 marunouchi(ポイントゼロ丸の内)」です。
📣次回は、その取り組み概要とプロジェクトリーダーの思いを皆様にご紹介いたします。
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(参考文献)
・教室の環境と学習効率 建築資料研究社
クールビズを実践するオフィスにおける扇風機の気流が作業効率に及ぼす影響
・日本建築学会大会学術講演会論文集
室温28℃でも湿度を下げれば疲労軽減に有効であることを実証
・理化学研究所・ダイキン工業プレスリリース
(関連リンク)
・ダイキンの作るキレイな空気1/2 ☚ダイキン空気だよりVol.1
・ダイキンの作るキレイな空気2/2 ☚ダイキン空気だよりVol.2
・めざせ空気博士!エアコン分解 ☚ダイキン空気だよりVol.3