健康・運動にも「効率」を!
今回は低酸素システムを開発しているダイキンメンバーである特機事業部の平山さんと加藤さんへのインタビューをお届けいたします。
低酸素システム開発秘話から現在の取り組み内容、またプロジェクト推進にあたり課題になっている事等、とても興味深いお話を聞くことができました!
空気だより:そもそも、特機事業部での本システム開発経緯、成り立ちについて教えてください。加えてダイキン工業としてなぜ低酸素トレーニングについて注目したのかも教えて下さい。
平山さん、加藤さん(以下敬称略):特機事業部は医療機器と防衛機器の事業を2つの柱として行っています。3年程前から事業部の第3の柱となる新規事業を立ち上げようとチームを発足し、ヘルスケアに着目しました。ヘルスケアは既存の医療機器の事業に近く、今後は予防医療の市場の成長が見込めると考えたからです。今持っている強みの中から「人々を健康にすること」を考え、会社として掲げている「空気で答えを出す会社」から「空気で人々を健康に」を目指せる、低酸素トレーニングに注目しました。
空気だより:本システムは酸素濃縮装置の技術が活用されていると聞いていますが、どのような技術でしょうか?低酸素空間を作り出す仕組みついて教えてください。
平山、加藤:ゼオライトという物質が入った筒の中に、圧縮した空気を入れると窒素だけがくっつき、高濃度酸素が出てくるというのが酸素濃縮装置です。圧縮していた空気を減圧するとくっついていた窒素が放出され、排気側は低濃度酸素(窒素が約90%)となります。この排気側の低濃度酸素を活用したのが本システムになります。
システム全体としてはユニットで生成した低濃度酸素の空気と外気を混合調整し、低酸素空間へ給気します。また室内に設けたセンサーにより、酸素濃度13~18%の部屋(⇒高度3900~1200m相当の部屋)を作ることが可能です。
空気だより:ここまでの取組で大変だったことがありましたら教えてください。
平山、加藤:今まで特機事業部としては酸素濃縮装置など、現地で配管・配線などの施工作業の無い製品を取り扱っていた為、今回現地で他設備との接続やエンジニアリングについては全く知識が無く、違った考え方や判断をしなければならないことが大変でした。その部分については、空調事業部の方々にも知見をもらって、学んでいるところです。
空気だより:低酸素空間が今後普及するに当たって何か課題などありますか?また設備導入にあたってのメリット・デメリットを教えて下さい。
平山、加藤:今後の普及の課題としては、より手軽に低酸素空間を使えるようにすることだと思っています。現状では利用者に合わせた運動メニューは、トレーナーによる指導や利用者の判断で実施していますが、今後は、利用者のバイタルデータや映像などから利用者に合わせた運動メニューの提供ができるシステムの開発にも挑戦したいと思っています。
設備導入にあたってのメリットは、従来低酸素空間を作る際には大型の機械設備が必要で、電源容量や運転音の大きさなどから大掛かりな電気工事や防音工事が必要であったのに対し、今回開発したシステムは、コンパクトで静音性も高く、電源も100Vであるため防音や電源工事が不要になることです。
デメリットは、低酸素空間を作ることに対して共通して言えることですが、機器だけでなく配管・制御配線や気密性の高い部屋の準備などの施工工事も必要となるため、施設側に一定のハードルがあることです。少しでも施設側の導入ハードルが下がるように、空調施工で経験豊富な空調事業部の方々と協力して提案活動を実施しています。
酸素濃縮装置本体 低酸素ルームのシステムイメージ
空気だより:低酸素空間と高酸素空間の活用方法の違いなど教えてください(高酸素はリカバリー、低酸素はトレーニングの認識です。)
平山、加藤:高酸素空間はリカバリー、低酸素空間は心肺機能を高めるトレーニングに主に活用されています。低酸素空間はそれ以外にも赤血球が増えるので貧血防止、血流が良くなるので冷え性防止、肌が綺麗になるなど美容効果、生活習慣病予防効果もあると言われています。
今回当社の製品でも90%の高酸素を排気しており、技術的には高酸素空間の構築も可能ですが、残念ながら実用化には至っていません。理由としては、常圧での高酸素空間における健康増進に関するエビデンスが不足しているためです。一般的にリカバリーに使われている酸素カプセルなどは加圧状態での高酸素のため、常圧での高酸素とは効果が異なってきます。今後は常圧高酸素での影響についてのエビデンスも取得し、高酸素空間の開発に繋げていきたいと思っています。
空気だより:今までの納入実績があれば教えてください。
平山、加藤:まだフィットネス店舗への導入はありませんが、シェアオフィス『point 0 marunouchi』内に低酸素ルームを新設し、オフィスでの手軽な低酸素トレーニングによる健康増進効果の実証実験を4月から開始しています。これから具体的なお話があれば進めて行きたいと思います。
空気だより:特機事業部としての低酸素システムの展望・目的について教えてください。海外進出の検討もされておりますでしょうか。
平山、加藤:特機事業部としては本製品をヘルスケアでの事業展開の入り口としたいと思っています。今後は低酸素空間で取得できる環境データ、バイタルデータを活用して、より人を健康にするような空間を作る活動をして行きたいと思っています。
海外進出も出来れば良いですね。実は海外ダイキン拠点から試験的にショールームに導入したいという話も来ています。
空気だより:ターゲット先、ターゲット使用方法、ニーズの深堀などされておりましたら教えてください。
平山、加藤:低酸素トレーニングと親和性の高いアスリート(企業実業団、プロスポーツチームなど)のトレーニングだけに留まらずオフィスでの「ながらフィットネス」、高齢者などのリハビリ、ヨガやリラクゼーション、美容関係などをターゲットに低酸素空間ならではの価値を訴求していきたいと思っています。
<写真>丸の内でのトレーニング体感イベントの様子
空気だより:空調事業が主たるダイキンで今後どのように発展させるのか計画がありましたら教えてください。
平山、加藤:空間を作るということから、空調機とのコラボレーションをして、一緒に「空気の価値化」を進めていければと思います。
空気だより:特機事業部としての、低酸素空間への想いがあれば教えてください。
平山、加藤:低酸素空間を身近なものとすることで、多くの人々を健康にしたいと考えています。
空気だより:今後、低酸素空間以外での技術活用先について検討されていたら教えてください。
平山、加藤:既に低温事業本部の海上輸送コンテナで食品の鮮度を保つ技術として、特機の酸素制御技術が応用されていますが、それ以外はまだありません。今回の低酸素システムで空調とのコラボレーションによる事業の広がりを感じていますので、今後も酸素や窒素を活用した、次のテーマも考えて行きたいです。
空気だより:営業や企画では事業部が異なるメンバーと業務で関わることはあまりないので、知らないことも多く、とても興味深かったです。事業部間での技術活用やコラボレーションが出来ているのは嬉しく思いました。
次回も皆様のお役に立てるような内容を準備しております。お楽しみに!
関連リンク
・海上輸送コンテナで食品の鮮度を保つ技術 DAIKIN Active CA