ダイキンは自前主義から脱却し東京大学、ダイキン両組織のトップから担当者まで共に深く考え、新たな価値を創造していく包括的な取組みを「協創」と定義し、産官学連携による協創イノベーションの実現に挑戦しています。2018年には、10年間で100億円規模を投じ、東京大学と産学協創協定を結びました。
今回と次回は東京大学サスティナブルキャンパスプロジェクト(以下TSCP)の先導的な試みのご紹介と、TSCPチームの方々へのインタビューをお届けいたします。
東京大学発ベンチャーのWASSHA株式会社とタンザニア連合共和国でサブスクを事業とする合弁会社Baridi Baridi株式会社を設立
東京大学発ベンチャーのフェアリーデバイセズ株式会社と空調サービスエンジニア育成のための遠隔作業支援ソリューションを構成するスマートウェアラブルデバイス「THINKLET®」を共同開発
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最大の特徴として、組織対組織の本格的な人材交流も行っており、東京大学の教員や学生、起業家、ダイキンの従業員が、各組織を自由に行き来し、知見の共有や共同研究を行っています。前回ご紹介した「見かけ換気」もこの一環です。
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また、ダイキンが世界に展開する営業・生産・研究開発拠点でのグローバル・インターンシップを実施し、東京大学のグローバル化およびグローバル人材育成にも協力しています。
まずTSCPとは東京大学サスティナブルキャンパスプロジェクト(Todai Sustainable Campus Project, TSCP)の略で、東京大学が従来から有している知的資源を活かし、研究と教育の活性化を図りつつサステイナブルなキャンパスの実現に向け先導的な試みを実践することで、持続可能な社会の実現を目指す取組みです。
近年、「脱炭素」や「SDGs」についてしきりに叫ばれていますが、このTSCPは2008年から取組みを行っています。この2008年は洞爺湖サミットが開催されました。サミットでの中心議題が地球温暖化だったことから、世界的にサステイナビリティの機運が高まりつつある状況だったと言えます。
先導的な試みとしてTSCPでは緊急性、困難性と大学が先導的役割を果たす必要性の高さから、温室効果ガス排出削減による低炭素キャンパスづくりを当面の最優先課題として、大学全体のCO2排出量を2030年度に2006年度比50%削減を目標(TSCP2030)に、省エネ対策を実施しています。
温室効果ガス排出の少ないキャンパスを実現するために、的確な状況把握(サステイナビリティ・モニタリング)を行いながら、低炭素化を実現するために的確な対応設計(サステイナブル・デザイン)を実施するとともに、総合的な実施・評価を行います。これにより、今後目指すべき持続型社会モデル(サステイナブル・社会モデル)を提案していきます。またこれらの相互関係や相乗効果を勘案し、同時進行的に効果的・効率的に実行する“共進化システム”を構築し、これらを通じて、持続可能な低炭素社会を目指す日本のモデルケースを教育機関として実現することをTSCPの基本理念に掲げています。
また、国内外の大学間のネットワークを通じてこれらの試みを世界的な大学の動きにつなげていくと共に、その動きを社会へと波及させ、さらに社会における低炭素型の技術と対策の普及をリードすることによって、低炭素社会実現に向けて経済的な波及効果をもたらすことをめざしています。
「温室効果ガス排出削減による低炭素キャンパスづくり」と聞くと具体的にどんな取組みを行っているのでしょうか。設備の改修がメインの難しいお話なのでは?と思う方もいらっしゃると思いますが、実はもっと手軽で簡単な取組みからも低炭素キャンパスづくりはスタートしています。
例えば、照明のLED化です。TSCPではキャンパス内の照明を2019年度より年間あたり2万灯弱を5年かけ計10万灯を更新しています。さらに手軽な取組としては大学を使う人々の省エネ意識の向上を呼び掛ける省エネステッカーや実験設備の省エネガイドラインの作成・配布をしています。このような誰でも今日から実践できる取組みもありますがやはり低炭素キャンパスづくりに欠かせないのは設備の改修です。TSCPでは空調機の更新に伴ってエネルギー消費の実態把握を行い、運用改善を行っています。その事例をご紹介します。
TSCPの設備導入時の検討フローとしては下記のようになっています。
1、各種機器の導入量調査、各建物のエネルギー消費実態把握
2、優先順位(対策項目、対象建物)
床面積あたりの一次エネルギー消費量と設備容量を集計
設備容量と床面積原単位の関係から、熱源などの設備機器による消費
が主体の建物を選別し、消費量の大きな建物から対策を実施
3、機器更新、運用改善
高効率機器への更新、適正機器容量への改善
〇事例紹介
キャンパスにおいては将来にわたる室用途の変更を考慮し、余裕を持った空調容量で選定する傾向がありました。省エネを目指すうえでは、室外機の発生頻度の多い能力帯にて、機器効率の高い運転になる機器を選定することが有効となります。
そこでTSCPでは数年前から、空調が適正容量になるように適正容量参考値(ベンチマーク)を設定しました。
このベンチマークを設定してから、TSCPが関わる空調設備更新において、既存の室外機容量のままの更新ではなく、ベンチマークを参考に最適な室外機容量への更新になるよう取り組んできました。
2020年度に、東京大学に設置されるビル用マルチエアコンの内、データ収集可能な機器を対象に、ダイキンとともに室外機の能力と消費電力のデータ分析を行いました。
その結果、研究室や事務室の消費電力量の内訳は、暖房の割合が多く、実験室は通常負荷に加え実験装置による発熱負荷があるため冷房の割合が多いといった傾向がみられました。
また能力負荷率を見ると、研究室や事務室は年間で見ると冷暖房共に低負荷域での運転が多い一方、実験室系は比較的高負荷での運転が確認されました。ただし実験装置の発熱などによる冷房負荷が多いため、暖房時は低負荷での運転となっていました。
これらの分析結果を基にTSCPの設定するベンチマークの確認を行いました。研究室や事務室ではベンチマークを大幅に下回る系統もありました。
さらに分析データから既存室外機の能力をダウンサイジング(既存の能力から、より負荷に対して最適な能力になるよう機器能力を小さく変更すること)またはアップサイジングを行った場合の消費電力量の検討を行いました。
その結果、低負荷域での運転時間帯が多い系統はダウンサイジングを実施することで高いCOPでの運転時間が多くなり省エネとなることが確認されました。また低負荷から高負荷までの冷房能力の発生がある系統ではアップサイジングを実施することで低いCOPでの運転時間が減り省エネとなるケースを確認しました。
このことから、一概に「ダウンサイジング=省エネ」ではなく運転特性により異なるということが分かりました。TSCPでは今後もベンチマークの有効性の確認や、計測データの分析・容量変更試算を基にした最適容量選定効果に期待し活動されていくとのことで、ダイキンとしてもその取り組みに今後も着目していきたいと思います。
次回は東京大学様の知的資源を生かし、研究と教育の活性化を図りつつ、サステイナブルなキャンパス実現に向けて先導的な試みを実践するTSCPがこれまでどのように低炭素キャンパスづくりを取組んでこられたか、またこれからの脱炭素社会に向けて現在取り組まれていることについてのインタビューをご紹介します。どうぞお楽しみに!
(関連リンク)
〇ダイキン ニュースリリース
「東京大学とダイキン工業による「産学協創協定」の締結について」