こんにちは。ダイキン工業です。
年末が近づき街も華やいでまいりました。しかし、多くの教育現場では、新型コロナウイルス(以下COVID-19)の集団感染の脅威を抱えながら、感染防止の基本行動を遵守する取り組みが継続して行われています。
特に、感染予防を最優先とするため、当たり前のように実施されるようになった「窓開け換気」は、室内環境(温度や騒音など)が犠牲になることによる学習効率の低下に目をつぶっていることが現実です。多くの関係者が室内環境(温度や騒音)と安全な環境の両立に苦心されている状況が続いています。
そのようなお悩みの現実的な改善策として、10月12日に東京大学様、日本ペイント様と共同で、「学校のエアロゾル感染予防ガイドライン」(以下ガイドライン)策定のプレスリリースを致しました。
今回は、ガイドラインの内容をかみ砕いてレポートさせていただきます。ぜひ、最後までお付き合いください。
従来から、学校環境衛生基準による室内空間のCO2濃度1,500ppm以下にすることを推奨しており、これに準ずる普通教室では、一般的に432~828㎥/h(※①)の換気量があるとされています。
一方、厚生労働省によると、COVID-19対策では、一人当たり30㎥/hが必要といわれており、一般的な40人教室での必要換気量は1,200㎥/hとなります。
COVID-19対策としての必要換気量は、厚生労働省が推奨する一人当たり30㎥/hを目指すべきと考えられますが、多くの学校では必要換気量を満たすことができていません。
このような状況下で、教育現場では文部科学省が推奨する窓開け換気が実施されてきました。しかし、真夏や真冬、周囲騒音が気になる状況においては、著しく学習環境を損なうことになっているのが現状です。
※①:幼小中高での生徒のCO2発生量の違いにより、幅が生じている
一方で、換気量を確保できない居室への対策として、空気清浄機の設置が進められてきました。しかし、COVID-19対策において、厚生労働省からも空気清浄機の有効性は謳われていたものの
・どんな性能のものを何台設置すればいいのか?
・換気と合わせた効果を考える指標はないのか?
などの疑問にまでは言及されていませんでした。
多くの方が、世の中にあふれる様々な空気清浄機の選定に苦心し、科学的な根拠に頼れない対策に、不安な思いをされていたのはないでしょうか。
もし、空気清浄機の効果を換気機器と同じ土俵、つまり外気と室内空気の入れ替える「換気量」に置き換えることができれば、不足する換気量に対して、どんな性能の空気清浄機を何台設置すればいいのか?ということが検討できるようになり、課題解決につながりそうです。
たとえば、40人教室で必要換気量1,200㎥/hに対して、現状800㎥/hの換気機器が設置されていたとすれば、残りの400㎥/hに値する空気清浄機の性能と台数は?という感じです。
ガイドラインでは、上記について明らかにし、換気機器と空気清浄機の組み合わせで必要換気量を満たすための指針について言及しています。
■空気清浄機を含めた換気量の求め方
ガイドラインの中では、実測とシミュレーションの両面から検証を行った結果、以下の条件式を満たすことが必要としています。
必要換気量:1,200㎥/h(※②) ≦ 機械換気量[㎥/h] + 空気清浄機のみなし換気量[㎥/h]
空気清浄機のみなし換気量[㎥/h] = 空気清浄機風量[㎥/h] × 除去率(※③)
※②:40人教室、一人当たり30㎥/hでの必要換気量
※③:除去率:ウィルスが空間浮遊した際の大きさ0.1~0.3μm の粒子径に対して一過性での捕集効率
先ほどの例と同様に、40人の普通教室において、必要換気量1,200㎥/hに対して、機械換気が800㎥/h設置されていたとします。HEPAフィルタ付の空気清浄機の集塵効率が90%とすると、
空気清浄機風量 ≧ (1,200 – 800) / 0.9 ≧ 444.4㎥/h
となり、この風量を満たす空気清浄機を設置すれば、新鮮な外気で必要換気量を満たした空間と同等のリスク空間となり、エアロゾルによる集団感染リスクを低減させることができます。
また、空気清浄機の中には「適用畳数」という指標で性能表示しているものもあります。その場合、「適用畳数」は業界規格(JEM1467)で明確に定義されているため、以下の式で空気清浄機のみなし換気量を計算できます。
空気清浄機みなし換気量[㎥/h] ≒ (1.65 / 7.7 ) × 適用畳数[畳]
上記の式を用いることで、現状の換気量もしくは改善後の換気量に対して、どんな性能の空気清浄機が何台設置すればいいのかが判断できるようになります。
実際の選定の際は、フィルタ目詰まりなどによる風量低下影響を加味して、安全率を考慮することや、運用時の風量低下が最小限になるように定期的なメンテナンスを行うことを留意するようにしましょう。
※空気清浄機では汚染物質の除去は可能ですがCO2濃度を下げることはできないため、学校では休み時間を利用し定期的に窓開け換気等で換気を行うことも必要です。
本稿では、「学校のエアロゾル感染予防ガイドライン」ついて、概略をご紹介いたしました。
ご留意いただきたいのは、ガイドラインの対策でリスク低減できるのは空気感染に対してのみです。手指消毒による接触感染防止対策、ソーシャルディスタンス確保による飛沫感染防止対策は、同時に行うことが重要であることは言うまでもありません。
また、換気量を増強する際には、外気をそのまま流入させると、室内温熱環境に影響を及ぼすことが想像されます。機械換気による対策を図る際には、全熱交換器などの使用を検討することも重要です。
ご紹介した内容を参考に、少しでも安全かつ快適な学習環境の構築実現にお役立ていただければ幸いです。
◆ニュースリリース
https://www.daikin.co.jp/press/2021/20211012
東京大学・ダイキン工業・日本ペイント
呼吸器感染症の感染リスク低減対策の為の教育現場向け参考ガイドを共同で策定
◆呼吸器感染症の感染リスク低減対策のための教育現場向け参考ガイド
https://www.ducr.u-tokyo.ac.jp/content/400104208.pdf