TSCP設立経緯・取組内容について

空気だより:早くから低炭素キャンパスづくりに着手されてこられたTSCPの設立経緯を教えてください。

TSCPTSCPはTSCP室(当時)として2008年7月に発足しました。発足以前も、サステイナビリティに関する教育研究活動、環境に配慮した大学運営が従来から進められてきましたが、これらは学内にて個別に進められていました。そこで、サステイナブルキャンパス活動を学内で組織的、戦略的に進めるべきとし、2008年のTSCP室発足に至りました。発足年の2008年に開催された洞爺湖サミットでは、地球温暖化が中心議題となり世界的にサステイナビリティへの機運が高まりつつある状況でもありました。

空気だより:プロジェクトを推進していく中で課題となった事や悩まれた事はありますか?

TSCP:2019年度より蛍光灯照明をLED照明へと計画的に更新を行っています。年間2万台弱を対象に実施しているところですが、実施計画の策定と実際に更新をする際の時期調整が課題でした。各建物利用者に協力いただきながら、大学内の省エネに向けて進めています。

また、産学連携にて複数の企業にご協力いただき、実験系のガイドラインを作成してきました。ガイドラインは0ベースからの作成となるため、ガイドラインの目的を明確にし、ストーリーを組み立て、執筆項目毎に内容を詰めていく、この一連の考察と作業が大変でした。また専門知識の表現を一般の方にもわかるようにするのが難しいと感じています。

TSCPチームの現在の活動について

空気だより:TSCPチームの取組みは学生、教員、職員の方々にどの程度浸透していますか?

TSCP:浸透させるために東大として環境報告書を作成し外部発信や、学内広報への記載、東大新聞からインタビューを受けるなど取組内容を情報発信しています。それ以外にも文科省などから各大学の取組として紹介されています。また、部局毎に窓口を設けて頂き、年2回は情報発信の場を設け、設備更新の情報を頂いたりして連携しています。

大学の会議ではTSCPの話題が出ることも多いため、教員には浸透していると感じている一方で、TSCPチームと連携するTSCP学生委員会がSDGs意識調査アンケートを学内の学生向けに行ったところ、取組みの認知度は11%程度であったため、今後は学内への情報発信を改めて検討する必要があると考えています。

 

空気だより:サステイナブルキャンパスの取組みを進めるにあたり課題になっている点はありますか?

TSCP:年度毎に各部局から、光熱費の一定の割合分の費用を徴収し、これを我々の事業の予算としています。そして、この予算をもとに、部局の設備更新がCO2削減に貢献するよう支援を行っています。支援対象は、費用対効果とCO2削減効果の高い事業から優先して行っています。

各部局から徴収する費用は、元々は文科省からの運営費交付金であり、だからこそ有効活用しなければなりません。一方、2008年度から本事業を開始しましたが、学内に費用対効果の高い事業は少なくなってきました。今後のTSCP事業をどのように続けていくかは考えなければならない課題です。

東京大学の規模は大きく、床面積で180万㎡以上はあります。大学全体としての低炭素化を全てカバーするのは難しいですが、大規模改修から部局の小さな更新まで、TSCPの考える省エネ施策をこれまで以上に反映できるようにしたいと思っています。

 

空気だより:TSCPチームの具体的な目標を教えてください。

TSCP:従来、費用対効果の高い空調設備の更新事業に重点を置いてきました。現在は、本学の建物単位の蛍光灯照明のLED化事業を行っています。今後は、実験室の空調設備や実験装置の使用実態を把握した上で、省エネ意識醸成を含めた対策にも重点を置いていく必要があると考えます。

また、省エネだけでは本学の脱炭素化を達成することは不可能ですので、徹底した省エネ活動の後には創エネの取組みについても検討が必要だと考えています。現時点では創エネのポテンシャルがどの程度あるのか調査を進めているところです。

 

カーボンニュートラルへの取り組みについて

空気だより:TSCP2030(CO2排出量を06年度比で50%削減する目標)に向けて取組状況を教えてください。

TSCP:2008年発足時チャレンジ目標として、TSCP2030を策定しました。2020年度のCO2排出量は基準年度である2006年度に比べて若干下がった程度です。TSCP2030目標を達成するのはかなり難しい状況ではあります。ただ基準年度から、大学の研究活動は活発化しており、建物床面積も増加しています。総量ではなく面積換算しますと、エネルギー使用量は年々下がっています。大学の皆様のご協力もあり、エネルギー効率は上がって来ていると考えます。

 

空気だより:脱炭素社会において、何が必要だと思われますか?

TSCP:現在、エネルギー消費を再生可能エネルギーで全て賄っていない前提であれば、大学関係者が校内にいるだけで照明、空調、実験などでエネルギー消費をしてしまう(=CO2排出)ので、やはり一人一人がこれを認識することが必要だと思います。そして、そのような考えが大学構成員に根付くことで、省エネ、ひいてはCO2削減に繋がっていくのではないかと考えています。

 

大学でZEBを進めていることについて

空気だより:東京大学としてZEBについて今後どのように考えていますか?

TSCP:ZEBの考えも、参考として取り入れていきたいと考えています。以前ある建屋でZEB Readyを検討した際、空調容量130w/㎡以下にしなければならないことを確認しました。執務室だけでなく、実験室やサーバー室なども混在しており、建屋として達成は難しいと思っています。ZEB Readyにならなくても研究に支障がない上で可能な限り、どれだけ近づけるかという観点で進めていけば良いのではないかと思っています。

 

空気だより:研究活動として使うエネルギーとキャンパスの低炭素化の動きでどちらを優先するかについて先生方と対話される事もあるのでしょうか?

TSCP:先生方の研究活動におけるエネルギー消費について、我々から研究活動を抑えるような進言する事はございません。実験で必要な設備は動かしながらも、省エネ・省CO2に貢献する情報を発信したいと考えますが、設備更新やエネルギーの使用は最終的には先生方のご判断となります。

年2回開催する各部局との連絡会では、出席される先生方に、資料をもとに各部局の保有する建物のエネルギー使用状況をお伝えしています。これにより、エネルギー使用量の多い建物を認識いただいております。この連絡会では、我々が考える省エネについての情報発信も行っています。

 

空気だより:ありがとうございました。

 

編集後記

エネルギー使用量の削減を推進しつつ、必要な実験活動は滞らせないという点について、最適バランスを見極めるために悩まれながらも前に進められておられる姿勢に大変感銘を受けました。製造業の弊社でもエネルギー使用量の削減と製造活動で同じような課題もあり、共感するものがありました。

関わっているのはすべて「人」であり、一人ひとりの意識がエネルギーの使い方、省エネ機器の選定などにも寄与しているので、社会全体の風潮も含めて、意識改革が重要であることを改めてご教授いただきました。

貴重なお時間を割いてくださった東京大学TSCPチームの皆様にこの場を借りて感謝の意を御伝えすると共に、ダイキン工業としてもユーザー様の立場になって今後も環境へ配慮した製品開発、ソリューション提案、情報発信を続けていきたいと思っております。

 

関連リンク

・戦略的な施設マネジメント実践事例集2019(39、40ページ抜粋)

 https://go.daikin.co.jp/l/999411/2022-12-26/4fsh/999411/1672031350uiiytSNj/tokyouni02.pdf

・ニュースリリース

   東京大学とダイキン工業による「産学協創協定」の締結について

  https://www.daikin.co.jp/press/2018/20181217

・東京大学サステイナブルキャンパスプロジェクト(TSCP)

  http://www.tscp.u-tokyo.ac.jp/